朝日新聞のグラフが胡散臭いー衆議院予算委質問時間

 昨日、お伝えした衆議院予算委の質問時間の配分について報じている朝日新聞のグラフが非常に胡散臭かったので記事にしました。

 

 まずは、こちらのグラフをご覧ください。

 

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出典:質問時間は与党5・野党9 衆院予算委、与党が押し切る:朝日新聞デジタル

 

 このグラフを掲載した記事の書き出しはこのようになっています。

 

国政全般を議論する衆院予算委員会で、野党の質問時間が削減されることになった。

出典:質問時間は与党5・野党9 衆院予算委、与党が押し切る:朝日新聞デジタル

 

  さて、このグラフに嘘はないのですが比率と量を意識的に混同して「質問時間が削減された」と感じるように誘導するフェアでないグラフだと思います。

 

 まず、はじめに比較している会期の性質の問題があります。現在、開かれているのは解散総選挙の後に開かれる「特別会」で衆議院議長・衆議院副議長の選出と内閣総理大臣指名選挙が主目的の会期です。日数も3日程度と短期間のことが多く予算委員会の審議が行われないことも殆どです。つまり、ゼロベースから必要に応じて審議時間を設定するのが特別会での予算委員会の位置づけになります。一方、比較対象にしている2月の予算委員会は常会に当たり毎年決まった期間に開催されるいわゆる通常国会です。この第193回(常会)において予算委員会は1月末から7月末までの間に21回開かれています。質的にも量的にも異なる会期から2日を抜き出して「時間」という量に注目して比較するのはフェアでありません。そもそも朝日新聞が抜き出しているのは、予算委員会の序盤に3日間に渡って行われた基本的質疑のうちの2日間です。「比率」に着目して比較するのであれば基本的質疑の3日間や、第193回の予算委員会全体といった総数に対する比率を出すのがフェアであると言えます。もっとも、どこを切り取っても20:80が36:64になったという単純な図式ですのでわざわざ比率を図示してみせる意味はあまりありませんが。

 

 では、過去のどの会期と比較するのがフェアと言えるのでしょうか?

 答えは「ない」です。上述の通り特別会での予算委員会の審議は都度協議され必要に応じて行われるものですので、比較対象となりうる会期が存在しないのです。ウィキペディアの特別国会一覧をご覧いただければわかりますが、今回と比較可能な会期は見当たりません。最も日数が近いのは第163回国会ですが、これはあの郵政選挙後の特別会で郵政関連法案などが数多く審議されており事情が異なります。

 

 それでは、今回の配分時間の見直しについて量的に比較する方法はあるでしょうか?結論から言うとひとつだけあります。それは、慣例に従って第195回(今回)を配分した場合との比較です。

 

 ここで今回の経緯を振り返ってみましょう。

 ①与党若手議員が発言機会を求めて質問時間の配分見直しを提案。

 ②与党が1日半の予算委員会審議を提案。(時事通信報道)

  →与野党で質問時間の配分で対立(6対4 or 2対8)

 ③野党が「野党分の削減ではなく、審議時間全体を増やして調整するよう」求める。(朝日新聞報道

 ④与野党が互いに妥協して2日間の日程に決定。

   与党:6対4から36対64に。

   野党:2対8から36対64に。

   ※審議時間全体を増やしたために与野党ともに質問時間は増加。

 

 この流れを念頭に慣例に従った配分と協議の結果決まった配分を「時間」という量ベースで比較してみましょう。グラフにするとこのようになります。

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 このグラフを見れば一目瞭然ですね。野党の質問時間は減っているどころか増えています。与党の質問時間も増えていますしなんて素晴らしい解決案なんでしょう(笑)

 

 異論はたくさんあるでしょうが、報道されている事実を元に纏めるとこの様になります。もちろんこんな朝三暮四のお手本のような話を真に受けろとは言いませんが、フェアネスでは朝日新聞のグラフに一切劣ることはないと思います。自民党の老獪(?)な交渉術に翻弄される野党という図式を見事に表していると思います。今回に関しては1日半と言い出した時点で自民党が勝っていたということです。

 

 今回の配分を前例としないという点で与野党は合意しています。これは、今回の予算委員会での審議を通して与野党が国民にこの問題での正当性をアピールする機会を得たことを意味しています。大幅に増えた自民党の質問時間を有効に活用できれば、恒久的な配分ルールの見直しへの国民の支持は高まるでしょう。野党議員も同じことが言えます。今回の予算委員会での審議の質が次の国会での時間配分をめぐる争いで強力な武器となります。その意味で本国会は議員の見本市の様なものと言えるでしょう。我々がするべきことは、我々を代表する場である国会において誰にもっと発言させるべきかを見極めることでしょう。

 

 それゆえに、この問題に関して私はフェアネスを重要視しています。正しい前提知識を持って、前向きな議論がなされることを願っています。この問題に関してはこれまでも多く言及してきました。多くの事実誤認や虚偽がまかり通っているからです。以下の3記事はこの問題の前提となる部分について書いていますのでぜひご覧ください。

 

記事の見出しと本文で主語が異なるよくある話

国会質問時間配分問題の議論はまず立憲民主党の嘘を正すことから

話し合いの結果を評価する与党と批判する野党ー国会質問時間配分がひとまず決着