悪質な消費者と善良な労働者

 先日の記事でも消費者の権利を重視しすぎる風潮について書きましたが、流通業界のお客様第一主義がもたらす弊害もまた深刻です。

 

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 私も10年ほど流通業界にいましたが悪質なクレーマーは数多くいました。某小売チェーンのエリアマネージャーをしていた時などは管轄する店舗からクレーマーがいるという連絡を受けて山手線に飛び乗ることなど日常茶飯事でした。その中で重要だなと感じたのは「どこまでがお客様か」という線引きを明確にしておくことです。

中には「2時間にわたって正座させられ片方の耳が聞こえなくなった」という男性や、「客から腕で何度も胸をつつかれ、上司に報告したが、『大ごとになる』と対応してもらえず、体調を崩して精神疾患になった。私に人権はないのか」とつづった女性もいました。

  同業他社の話などでこの様な事例をいくつか耳にしたことがありますが、私がいた会社は幸いなことに上記の線引きがはっきりしていましたのでこの様にエスカレートすることはありませんでした。

 

 その線引きを具体的に言うと、「ここからは警察に通報してよい」というルールのことです。私は店舗のスタッフにこの基準を通達していました。そうすることで悪質なクレーマーに対してしなくてもよいお客様扱いをして事態を悪化させることを防げるからです。

 

 例えば、カウンターなどを叩く蹴るした場合、大声をだした場合、詫びの金品を要求した場合、「お引き取りください」と2回以上言っても帰らない場合などはすぐに警察に通報することにしていました。この基準には驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、警察はこれらのすべての場合に威力業務妨害等に該当するとして問題の人物を店外へと連れ出して指導してくれます。ここで重要なのはトラブルの原因がこちらに非がある場合でもこの基準は変わらないということです。いかなる理由があろうと上記の行為をしたものはお客様ではなくなります。ここの割り切りこそが重要なのです。

 

 暴力や高圧的な態度を背景に利益を得ようとする者に屈することはその他のお客様にとって失礼ですし結果的に不利益をもたらします。また、本来お客様の利便性や価格などに反映するべきリソースをそういった者に対応するために割くことはお客様にとっての損失となります。この考えに立ってみれば「どこまでがお客様か」を明確にしてそこを越えたものに対してはしかるべき対応をとるのは接客業にとっての義務とも言えます。

 

 私がいた会社は専門性が高く比較的価格以外の競争力があった為、上記のような強気の対応を取ることにそこまでの抵抗はありませんでした。一方で、競争の激しいスーパーやコンビニなどでは中々お客様を切り捨てるという発想は持ちにくいかもしれません。しかし、悪質なクレーマーはほんの一握りです。彼らが来なくなったところで困らないどころかお店にとっては良いことだらけです。そういった方は一度警察の方に相談しておくと良いかも知れません。どういった事例で警察がどう対処してくれるのかを事前に知ることができますし、110番ではなく警察署の担当の電話番号も教えてもらえます。それを共有しておくだけでもスタッフの安心感は大きく変わってきます。

 大切な労働者であるスタッフを守るためにも是非事前の対策をしましょう。