「子どもの貧困」の具体的なイメージ

 興味深いなと思った記事なのですが、惜しいなと思った点もあるのでそれも込みでご紹介します。

「理想の貧困」に苦しむ…リアル当事者 スマホもライブもダメなの? - withnews(ウィズニュース)

 貧困当事者だという人を「お前は貧困じゃない」と批判する「貧困たたき」で、ずっと気になっていることがあります。たたく人は、頭の中に「これが貧困だ」というある種の「理想」があって、それに当てはまらないから怒るわけですよね。でも、その「理想」って、正しいのでしょうか? 貧困家庭で育った若者たちに、話を聞きました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

 

 昨年のNHKの番組で紹介された貧困女子高生について物議を醸した件を下敷きに多くの人が抱く「理想の貧困」と「貧困家庭の子どものリアル」について貧困家庭で育った大学生5人の話を聞くという構成になっています。

 

 

 

 非常に興味深く読ませていただいたのですが全5回の連載の2回目までしか公開されていないということもあり、残念ながら私には彼らの貧困家庭の具体的なイメージができませんでした。貧困と定義された子ども達が実態はこうだよと一般的なイメージを覆す証言をしてくれるのですが、そこからは貧困の実態はいかなるもので何が問題であるのかが見えてこないのです。

 

 この一番の理由は議論の前提となる「子どもの貧困」の定義が示されていないことだと考えました。例示されているスマホを持てる子ども達、ジャニーズのライブに行ける子どもやゲーム三昧の子どもを何をもって貧困と言っているのかが分からないのです。この問題について精通している記者にとっては当たり前過ぎることなのかもしれませんが、一般の印象を覆すという記事の趣旨からすれば想定する読者はこれらを知らない前提で書かれた方が良かったのになと惜しく感じました。

 

 というわけで、勉強不足な私がしこしこ調べてみました。

 

 5人とも、経済的に苦しい家庭で育ちました。

 日本の子どもの貧困率は、13.9%ですが、この5人が育った家庭の生活水準も、「貧困」と呼べるレベルです。

 

 上記の数字をもとに調べてみるとおそらくこの記事での貧困の定義と思われる資料が見つかりました。厚生労働省のHPにある平成28年 国民生活基礎調査の概況がそれです。

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出典:II 各種世帯の所得等の状況

 

 厚生労働省の調査で13.9%子どもが貧困状態にあると出ているのですね。ではこの定義について見てみましょう。

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出典:国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問

 

 つまり、等価可処分所得額が貧困線の122万円を下回る世帯の子どもの割合が子どもの貧困率ということになります。せっかくなので世帯の可処分所得ベースに逆算してみましょう。

 

 (等価可処分所得)=(可処分所得)÷(世帯人数の平方根)

 

となりますので、

 

例①:両親と子ども1人の世帯の貧困線(可処分所得換算)

 122(万円) × √3 = 211.3(万円)

 ※12か月で割ると 17.75(万円) 

 

例②:両親と子ども3人の世帯の貧困線(可処分所得換算)

 122(万円) × √5 = 272.8(万円)

 ※12か月で割ると 22.7(万円) 

 

例③:片親と子ども1人の家庭の貧困線(可処分所得換算)

 122(万円) × √2 = 172.5(万円)

 ※12か月で割ると 14.4(万円) 

 

といった金額になります。いかがでしょうか具体的にイメージしていただけたでしょうか?

 

 ご紹介した記事で議論の対象となっているのは明らかに生命維持に支障をきたすレベルの話ではなく、このラインを少し下回る様な層を貧困と定義して社会のセーフティーネットの対象とするべきかという点だと思います。

 

子供の貧困対策 子供の未来応援プロジェクト

■子供の未来応援プロジェクト
明日の日本を支えていくのは今を生きる子供たち。その子供たちが自分の可能性を信じて前向きに挑戦し、未来を切り拓いていける社会にすることが必要です。しかし、生まれ育った環境によって、教育の機会が得られずに将来の可能性が閉ざされてしまう子供たちや、健やかな成長を育むための衣食住が十分確保されていない子供たちがいます。
貧困の連鎖によって、子供たちの無限の可能性の芽を摘むようなことは決してあってはなりません。
このホームページでは、すべての子供たちがそれぞれの夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して、様々な情報を提供していきます。

 

 引用したのは政府の子どもの貧困対策プロジェクトのページですが、この問題の本質が「子どもの機会の平等」であるということが非常によく記されていると思います。すなわち、どこまでを平等な権利として社会が保障していくかという論点です。

 

 連載があと3回残っているようですので上記の視点で続きを楽しみにしたいと思います。