ベーシックインカムほんとに足りるの?って話

 希望の党の公約にベーシックインカム(以下BI)が入っていることで俄かに議論が再燃していますが、私の感じている「ほんとに足りるの?」という素朴な疑問について書いていきます。

 

 財源ではなく支給額の話です。

 よくある議論で想定されている支給額は月額8万円から12万円。これが最低限の生活を維持していく為に必要な金額という前提になっています。しかし、実際にBIが導入された社会においてこの金額で最低限の生活を維持できるのでしょうか?

 

 確かに現在の感覚でいうと月に手取りで12万円あれば何とか暮らすことができます。贅沢するには少し足りませんが、将来の為の蓄えが実質不要になりますし、少しでも働いて稼げばその分は可処分所得になりますので今の様な過酷な労働環境の中で生きるために必死に働くよりは心身ともに豊かな生活が出来ることでしょう。

 

 しかし、ここで問題となるのがそういった状態では労働市場が極端な売手市場に傾くということです。無理して働く必要がなくなれば過酷な労働条件で低賃金で働く人は減ってきます。必要な労働力を確保するには賃上げは必須でしょう。

 例えば時給900円で月に8時間×22日で額面158,400円、手取りで月13万円程度を手にしていた労働者が月に12万円を貰えるようになった場合、いったいいくらの賃上げで引き続き働いてもらうことができるでしょうか?

 こうして一人当たりの労働者のコストは上がります。それに加えて労働者一人当たりが希望する労働時間が短くなるのも想像に難くありません。ただでさえお金の必要性が低下しているのに貰える時給が上がった場合、多くの労働者は働く時間を短くすることを選択することでしょう。

 

 その結果として起こるのは物価の上昇です。労務費コストの上昇を吸収するために企業は価格に転嫁せざるを得なくなるでしょう。世の中のありとあらゆるサービス、商品の価格が上昇します。労働集約型の産業ではこれらが顕著に表れるでしょう。

 

 そうすると月々12万円の支給額は最低限生活できるだけの金額と言えるでしょうか?物価の上昇に合わせて支給額を上げていけばよいのでしょうが、財源は所得税か消費税です。蛇が自らの尻尾に食らいついているかのようですがどうでしょう?

 

 また、医療費についても忘れてはいけません。

 基本的にBI導入に際しても医療保険制度は維持することが望ましいとされていますが、これは月額2万円前後の保険料を国民が継続して負担することを意味します。

 しかし、前述のとおり労務費コストの上昇が起こりますので医療費自体は増大していきます。医療は前述の労働市場の売手市場化において最も極端に振れる可能性のある産業の一つです。社会に必要不可欠であり専門性が高い職種ですので、人材確保のためのコストが上昇するのは明白です。

 

 そんなわけで、BI後の世界では徐々に物価が上昇し支給額の12万円では暮らせない社会になってしまいます。そうすると皆が職を求め始める為、労働市場は一気に買手市場に傾くことになります。BI導入とともに解雇制限や最低賃金などの制度が無くなっているため買手市場の企業は過酷な労働条件を強いることでしょう。

 結果として一周すると現在の労働環境とそう変わらない労働者の地獄が待っているのではないかと危惧するのです(笑)

 

 実は上記は楽観的な観測で、労務コストの上昇とともに企業は機械化と安価な労働力としての移民受け入れを加速すると思うんですよね。コンビニの自動レジとか宅配便のドローン配達とか進んでるじゃないですか・・・・・・。

 私の恐れる最悪の未来は、BIの支給額ではとても生活できないけど、まともに稼げる仕事に就ける人間はごく一握りで、多くは超低賃金労働という超絶格差社会のです。

 

 素朴な疑問レベルでちゃんと考えた話ではないので、詳しい人いたら教えてください。