「フェイクニュース研究会」に心底がっかりした話

 今回の総選挙に先立ちフェイクニュースについて調査し発表するプロジェクトが立ち上がり個人的には期待していたのですが上がってきた「フェイク判定」を見てがっかりしてしまいました。

jcej.hatenablog.com


 現時点(2017年10月10日14時)で4つのニュースについて「フェイク判定」しましたと発表されていますが、とても「有権者の適切な判断をサポートする」のに有用なものとは思えません。

 

 では、なにががっかりなのかについて以下の記事を例に説明します。

jcej.hatenablog.com

 

 こちらの「フェイク判定」ですが記載内容は以下の通りです。

民進党安住淳氏に対し、「『憲法改正は前から賛成だ』希望の党で公認候補を目指す民進議員が変節」とする記事が9月30日、ネットサイト「アノニマスポスト(anonymous post)」に掲載されました。フェイクニュース確認プロジェクトの参加者は、安住氏が「変節」した事実はなく、この記事を「フェイク」と判定しました。

<フェイク判定をした記者:3人>

  これは現在発表されている4記事全てに当てはまることですが情報量が圧倒的に少ないのです。どの媒体によってどういった主張がなされていて、その論拠が事実によらないものであるとどのように立証された為フェイクニュースであるという筋立てがありません。そもそもフェイクニュースとする記事へのリンクすらない時点で読者に検証し判断させる気はないと勘ぐってしまいたくなります。

 

 実際に上記の筋立てに沿って検証してみましょう。

 

■問題となる報道

 今回検証する対象は「アノニマスポスト」の上記リンクの「【 #衆院選2017 】民進党・安住 「憲法改正は前から賛成だ」希望の党で公認候補を目指す民進議員が変節~ネットの反応「民進党の議員どもの正体が見えて面白いな」「この発言覚えとけよw ブーメランになるからw」」という記事です。この記事の構成をまとめると以下のようになっています。

 

①朝日新聞の記事「 きのうまで改憲批判していたが…民進予定者、発言自粛も(朝日新聞DIGITAL)」の引用

②上記に対するネットの反応として「希望の党の幹部からして 、これだもんなぁ 2015年の発言」と2015年と2017年で希望の等の細野氏が安保法制に対して正反対のことを述べているテロップのついたテレビ画面のキャプチャ画像の貼り付け

 

⇒記事の要旨:安住氏をはじめとした「民進党議員が」次々に変節発言をしている。

 

 これに対して「安住氏が」変節した事実はないためフェイクニュースであると判定しています。このファクトチェックは適切なのでしょうか?

 

 アノニマスポストが論拠とする朝日新聞の記事はこのようになっています。

宮城2区から立候補を予定する鎌田さゆり氏は、民進が希望に合流すると伝えられた28日以降、毎日昼に続ける仙台市内での街頭演説で、憲法改正や安保に極端に触れなくなった。

前日までは安倍晋三首相を指して「憲法を改悪して再び海外へ戦争に出かける憲法に作り直しをする」などと批判。しかし、28日以降は「大義なき解散」への批判などに力点を移した。希望への配慮にも映る。

 取材に対し、鎌田氏は「目的は安倍政権を倒してこの国の政治を根本から変えること。その目標に向かってただ進むだけ」とし、自身のスタンスに変わりはないと強調する。

(中略)

 ほかの予定者からも希望の方針に沿った発言が相次ぐ。5区の安住淳氏は「前から憲法改正に賛成」。3区の一條芳弘氏は「憲法を絶対変えちゃいけないとは思わない」、4区の坂東毅彦氏は「すべて反対という立場ではない」。

  鎌田さゆり氏がの演説内容が変わった事実が書かれており、その文脈で「ほかの予定者からも希望の方針に沿った発言が相次ぐ。5区の安住淳氏は「前から憲法改正に賛成」。」と続いています。

  確かに、安住氏が希望の党の方針に沿った発言をしたとの記述はありますが、変節したとの直接的な記述はありません。この一文を持って朝日新聞社の井上充昌氏が安住氏は変節したと主張しているか否かは現代文の試験問題にでもすれば帰ってくる答案の内容は真っ二つに割れるかもしれません。学生時代、センター試験の現代文の成績だけは何故か良かった私は、「文中に直接示唆する記述がないので変節したとするのは誤り」派です。

 

 さて、この日本ジャーナリスト教育センター始めとするお歴々は現代文の読解問題の添削をなさっているのでしょうか?そうではありませんよね。フェイクニュースか否かの判定をすると宣言されています。であるからにはやるべきことはもっとある筈です。

 

 この時点で明らかになっているのは「問題の記事が引用しているソースから安住氏が変節したと読み取ることは難しい。」ということに過ぎません。

 ここで止まってしまっては「有権者の適切な判断をサポートする」ことはできません。ジャーナリストであるならば大上段から判定結果だけをアナウンスするのではなく過程を含めた判断の材料を提供するべきではないでしょうか。

 

 例えば、安住氏の過去の発言に以下のようなものがあります。

www.minshin.or.jp

 「わが党としても憲法改正については積極的な議論を行っているが9条についていじろうという考えはほぼないというのはコンセンサスだと思う。戦後歩んできた道を踏み外していくという憲法改正にはくみしないということは概ねコンセンサスを得ているのではないか

  党の代表代行としての発言ですが概ね安住氏の見解と受け取ってよいと思います。この「憲法改正については積極的な議論を行っているが」という部分を「前から憲法改正に賛成」という発言の裏付けだという見方もできますし、希望の党から立候補しその政策を受け入れるのであれば「9条についていじろうという考えはほぼないというのはコンセンサスだと思う。」という部分からの変節と言えるでしょう。

 

 この議論自体は安住氏が無所属で立候補ということであまり意味をなさなくなってしまいましたが・・・・・・。

 

 個人的な見解としてこのアノニマスポストの記事に問題はあると考えています。ニュースソースを恣意的な見せ方により読者に対してある種の印象操作を図ろうという意図が見えてきます。しかし、これ自体は珍しいことではなく参照元の朝日新聞の記事自体もその見出し、構成にそのような意図が見受けられます。

 私は、これらをフェイクニュースとして扱うことには反対です。もちろんマスメディア、そして個人がメディアを持つようになった時代の情報発信のあり方の問題として別の文脈で議論するべきことだとは思いますが。

 

 では、フェイクニュースとは何か? 

 英国の国民投票で見られた根拠のない虚偽の数字の流布や、アメリカ大統領選で見られた根も葉もない特定の候補者に利する、または害するようなニュースの流布こそが危険視されるものです。これらに対して目を光らせてしっかりと真偽を調べることが重要です。その時に、それぞれに対して真偽のみをぶつけるのでなくその判定の論拠を明らかにすることは不可欠だと考えます。

 

 フェイクニュースというものに対する危機感は皆で共有し排除していく仕組み作りが必要だと考えています。だからこそ、ここまで読んでいただいた方には私のがっかり具合に共感していただけると思っています。

 こうじゃないでしょう!!!!!こんなくだらないポーズでフェイクニュースと戦いましたなんて言っている人間がいるということに心底がっかりしています。こんなフェイク判定を続けていると結果的には信じたいものを信じる人々の集まりしか出来上がらないと思います。