Twitter認証バッジをどう捉えるかーヘイトスピーチと言論の自由

 ツイッターの認証バッジに関する問題が話題になっていますが、単純によくあるヘイトスピーチと言論の自由の問題の対立構造で語ってしまうのは勿体ないと思います。。ことの経緯は以下のリンク先が詳細にまとめられているのでご確認ください。

 

Twitter、批判受け認証バッジの仕組みを改定。再審査でルール違反者からの剥奪を開始 - Engadget 日本版

なりすまし被害に遭いやすい著名人やブランドもよく付けていますが、従来からジャーナリストに多く与えられてきたことが示すように、アカウントの人品骨柄や発言の内容ではなく、そのツイートが誰の発言なのか、発信元を確認できるようにすることが本来の目的です。

しかし、最近のTwitter上でのヘイトスピーチや嫌がらせ、暴力の扇動、脅迫といった問題について、対応が不十分だとTwitter社への批判が高まるなかで、「そもそも差別発言や暴力を扇動するようなアカウントにも「Twitterが認めた」証があるのはどういうことか、発言の内容やアカウントにお墨付きを与えているのか」といった声があがっていました。

 

 Twitter社の対応は以下の様なものです。

 

 

 これは実質的に、認証バッジに「Twitterに(価値を)認められたアカウント」という意味合いがあることを認めた上で、新しいガイドラインを作成してツイッターが価値を認めたアカウントにのみバッジを付与し、逆に価値を認めないアカウントからはバッジをはく奪するという宣言となっています。

 なぜならばTwitterは全てのユーザーに適用されるルールを既に持っているからです。

 The Twitter Rules | Twitter Help Center

Twitterのサービスにアクセス、または利用するすべての個人は、以下のTwitterルールを遵守する必要があります。このルールを守っていただけない場合、Twitterによる以下のいずれかの強制執行措置の対象となる場合があります。

  • ・新たな投稿や他のTwitter利用者と交流する前に、禁止されているコンテンツを削除すること
  • ・投稿の作成や他のTwitter利用者との交流の一時的制限
  • ・電話番号またはメールアドレスによるアカウント所有権の認証の要求
  • ・アカウントの永久凍結

永久凍結に備えて別のアカウントを作成した場合、新しいアカウントも凍結されます。

 

  このルールを前提にするとアクティブな状態にあるアカウントはTwitterルールに違反していないとみなすことができます。にも拘わらず認証バッジの付与に新たなガイドラインを設けて別の基準を用意するというのは、Twitter社が認証バッジに単なる本人確認以上の価値を設定するということに他なりません。

 すなわち、Twitterルールを守らない凍結済みアカウントとTwitterルールの枠内にいる一般アカウント、そして認証バッジのガイドラインに適合した特別なアカウントの3つが生まれることになります。

 

 これはTwitterという言論空間が完全にフラットな場ではなくなったということを意味します。Twitterというネットワークは誰にでも開かれたものではなく、一定の政治的・思想的立場に立った人たちのネットワークになります。これから先、Twitter社はあらゆる方向からガイドラインの運用とガイドラインそのものについて働きかけを受けることになるでしょう。これまで以上に「差別発言や暴力を扇動するようなアカウント」の定義や個々のアカウントに対する判断についての批判と要望、議論の的になることでしょう。それが、建設的な議論となれば良いのですが、自分と異なる思想や価値観の人間を排除するという傾向が強まることが懸念されます。

 

 ヘイトスピーチと言論の自由に関する議論で重要なのは、ヘイトスピーチそのものの是非ではなく言論の自由の対象とならない「規制されるべき言論」について誰が決めるのかという点です。その背景には一見議論の余地のない差別や暴力といったトピックが恣意的な拡大解釈を伴う際限のない規制を生む端緒となってしまうことへの危機感があります。

 

 今、Twitter上で起きていることはこの点で非常に危険です。幸いなことにTwitter社はこの件に関してある程度情報を公開しながら進めていく方針の様ですので、まずはこれを注視しましょう。その上で必要に応じて建設的な議論をしていきたいと思います。